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杣人・somabito

Author:杣人・somabito
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『ハンニバル・ライジング』

お元気ですか?

中高生の頃、数学史や科学史に興味があって何冊かの本を読んでいたことがあった。そこで知ったのは天才的研究者が現れ100年ぐらいをかけて他の研究者がこれを追うという図と、同時代に優秀な研究者が複数現れ競うようにして同じテーマの研究が進むという図であった。そうした学問の進化の図は私に人間のダイナミックな歴史を感じさせ今自分のしている勉強を非常に魅力的なものに感じさせた。宗教も人類の精神史と捉えてみると、私達はキリストや釈迦を2000年以上追いかけていると言える。

映画や本の世界でも同様の事が起るのはビジネスが絡むから当然なのかも知れない。CIAの分析官が登場するドラマを最初に知ったのはロバート・レッドフォードが演じた1975年の『コンドル』という映画だったが、トム・クランシーの『レッド・オクトーバーを追え!』を文庫で読み、007のように敵と直接戦う諜報員とは違い本来事務方の人間に光を当てた手腕に興味を持ったし、続く数冊は面白く読み映画も観たが、次第に軍事技術的な表現が多くなるに従い人物像やストーリーの面白さが無くなったので離れてしまった。
FBIの心理分析官という存在を知らしめたのは、トマス・ハリスの『羊たちの沈黙』だろう。猟奇殺人だけを言えばエドガー・アラン・ポーの作品にも多いし、切り裂きジャックを取り上げた作品も多い。しかし、『レッド・ドラゴン』から始まるトマス・ハリスの一連の作品によりハンニバル・レクターとFBIの心理分析官は犯罪者の心理という点で注目を得ることになる。現実の犯罪捜査では動機の解明というのが重要であり事件全体を理解する決め手にもなる。殺人事件にしろ強盗にしろ犯人を特定するのと同時に犯行の動機と手段への理解がなければ犯罪を解明したとは言えない。通常では考えにくい特異な方法による殺人や連続殺人などはその方法と動機において深い理由の存在が想像される。そして私達はそこにドラマを見ることになる。

『ハンニバル・ライジング』はハンニバル・レクターの生い立ちと彼が何故多方面に渡る高度な知識を持つ殺人者になっていったのかを明らかにする作品だ。リトアニアの裕福な貴族の家に生まれながら第ニ次世界大戦の渦中で悍ましい体験をして心を閉ざすが、フランスに住む伯父夫婦に引き取られ日本人である伯母から教育を受け才能を伸ばすかたわら、妹を殺した戦争犯罪者たちに復讐を果たす。ただし本書のハンニバルに限って言えば殺人者としての彼は洗練されてはいないし方法も様様で自らも傷つく場面が多々あり私はあまり感心しない。ハンニバルシリーズに関しては『レッド・ドラゴン』からの4作品でトマス・ハリスが筆を置いているのを良しとしたい。

さて読書の楽しみは様様あるだろうが、登場人物の心理描写、心象風景に触れることで読者自身が自分の心理のひだに目を向けるきっかけを得る事もその一つだ。『ハンニバル・ライジング』では幼少期のハンニバルが家庭教師のヤコブから「記憶の宮殿」の構築と歩き方を学ぶ。これにならって私達も自分の記憶を歩くことは決して難しい事ではない。目を閉じ子供の頃だろうが最近の事だろうが思い出したい風景を頭に蘇らせる。場所、季節、時間、周りに誰が居るのかそういった様様な情報を一つ一つ確かめながらパーツを置いていくことで記憶の蘇りはより鮮明で広がりを持つ。ただし可能な限り思い込みを排除しなければならない。春だから花が咲いている、夏だから暑いといった既成の情報を記憶と勘違いすることを避け、自分の記憶と厳しく向き合うことで思いがけない掘り起こしが可能となる。
さらに、記憶とともに感情の塔に踏み入ろう。何故私はこうした感情を持ったのか。相手のせいなのかそれとも自分の中にある何かが反応して感情を引き起こしたのか。それらを探るのは決して易しいものではない。だが長い年月をかけて作ってきた感情の塔はその積み重ねられた石の一つ一つを確認することで自分の力となるもの、自分の弱点となるものを知る事が出来る。

夜、ベッドサイドの明かりを消し読書を止め記憶と感情の世界を歩く。悲しい記憶を思い出すこともあるだろう、しかし甘美なやすらぎの空間を見つけることがあるのも確かだ。時にはそのやすらぎの空間で遊ぶのも良い。迷わない限りは。

ハンニバル・ライジング 上巻 (新潮文庫)ハンニバル・ライジング 上巻 (新潮文庫)
(2007/03/28)
トマス ハリス

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テーマ : 文学・小説
ジャンル : 小説・文学

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