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杣人・somabito

Author:杣人・somabito
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『ウィンブルドン』ラッセル・ブラッドン

お元気ですか?

当地は7月のお盆をむかえ、夜には念仏踊りなるものがどこからか聞こえています。土地土地に残るこうした風習に人の姿を見ることで心に清涼感を生みます。

読みたいと思いながらなかなか出会えない本があります。今日読み終わったラッセル・ブラッドンの『ウィンブルドン』も私の読みたい本のリストにいつもありながら長い間近づくことの出来なかった本です。今となっては何処でこの本を知ったのかすら覚えていないのですが、殺人予告をする犯人に抗しウインブルドンの決勝戦を行うテニスプレーヤーの話という内容を知り読みたいと思ったことは確かです。
私の同年代の人たちはきっと思い出すでしょうが、テニスが華やかな時代でした。ビョルン・ボルグ(スウェーデン)、ジミー・コナーズ(アメリカ)、ジョン・マッケンロー(アメリカ)、女子ではビリー・ジーン・キング(米)、クリス・エバート(米)、マルチナ・ナブラチロワ(米)といった選手たちの名前が浮かびます。中学時代校舎の中庭にあったテニスコートで練習している友人の姿も思い浮かびます。
しかし私はテニスファンというわけではありません。軽井沢や那須のペンションで遊び程度のテニスをしたことしか経験がありません。それでも本書『ウインブルドン』に惹かれたのは、他の作品にはない設定のせいでしょう。

こんなお話です。
17歳のプロテニスプレーヤーツァラプキンはソ連のチャンピオンだが、世界第二位の選手であるゲイリー・キングと知り合い亡命を決意する。キングの家族によってKGBから救われたツァラプキンは彼らと一緒に生活しながら世界を転戦しテニスを心から楽しでいた。そして亡命から一年後、ウインブルドンで決勝に進んだキングとツァラプキンは何者かの脅迫を受ける。犯人の要求を呑まなければ決勝戦の勝者どちらかとロイヤルボックスで観戦している女王陛下を殺害するというのだ。そして脅迫が本物であることを証明するように観客の一人が撃ち殺される。

『ウインブルドン』を読みながらふと気がつくのは作者の読ませ上手ということだ。テニスのファンではない私が作者の思惑通りにゲームを追っている。正確なショットを繰り返すツァラプキンとそれを打ち返しながら相手の意図を察するキング。ゲームカウントの間に二人はコートでの応酬を通じて気持ちを通じ合わせているのが楽しい。
テニスは心理的要素の強い格闘技だ。誘いおびき寄せ、揺さぶってポイントを稼ぐ。相手の性格やゲーム運びの癖などを知り対応するし、自分に有利なようにゲームをもっていく事もしなければならない。それだけにどうしても相手が有利なゲームの場面ではそのゲームをやり過ごして自分が有利なゲームで取り返すという計算もする。こうしたテニスの特徴が作品の中に存分に盛り込まれながら物語が進んでゆく。実際作者はこのテニスの面白さを伝えることに作品の半分を使い全部で23章ある作品の11章になって初めて事件が起こる。私はいつ事件が起こるのだろうかと事件の書き出しを読み逃さないようにと気にしたが、ミステリー作品としてこれは異例なことではないだろうか。
そして一度事件が動き出すとプロとしての意地の見せ場が展開する。プレイヤー二人、警察、ゲームを放送しているBBC、女王陛下も犯人の脅迫に屈して避難することを拒否する。それぞれの人がそれぞれの立場でプロの意地を示すのだ。プレイヤー二人のゲームを続ける姿は犯人狙撃者の一人も感心させるほどだが、狙撃者もプロなので犯行を止めることはない。

スポーツに限る事ではないが、勝ち負けを超えて感動を呼ぶ試合というのがある。選手にしても真剣な好試合をしているといつしか勝ち負けの勝負そのものより試合の内容を楽しみゲームに傷を付けたくないという気持ちになる。凡ミスや集中力の途切れによる失敗などでせっかくの美しい試合に傷を付けたくないのだ。観客によるつまらないヤジや悪戯も迷惑だ。その点では観客も良い試合を作るための大切な一部だろう。そうゆう試合はいつしか選手、観客を崇高な高みへと引き上げてゆき感動と深い喜びをもたらす。
『ウインブルドン』の作者ラッセル・ブラッドンはミステリーという舞台でそれを実現したかったのかも知れない。そしてそれは見事に成功しているように私には思える。

おまけ)
『ウインブルドン』は1977年に発表された作品でミュンヘンオリンピック(1972年)でイスラエル選手団の宿舎がテロリストによって襲撃され選手11人が犠牲になった事件の記憶も生々しい時代の作品だ。1976年のモントリオールオリンピックでも政治的理由による不参加やアパルトヘイト問題によるボイコットなどスポーツの世界に民族問題や政治問題が影響を及ぼすことがはっきりした。東西冷戦が終わりベルリンの壁が崩壊しロシアの社会主義体制が表面上崩れるのはもう少し先である。
作品の冒頭で主人公の一人ロシア人のツァラプキンが亡命しKGBに襲われるシーンがあるが、幸いに本作品ではスポーツ選手の亡命という神経質な問題には深く入り込んでいない。スポーツビジネスについても軽く描かれているだけだ。それは作者の意図していることがテニス賛歌にあり主題とずれるからだろう。
小道具としてポケベルが登場するが時代を感じさせるのはそれぐらいのもので、今読んでも充分楽しめる作品だ。



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テーマ : 海外小説・翻訳本
ジャンル : 小説・文学

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