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杣人・somabito

Author:杣人・somabito
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『声』アナールデュル・インドリダソン

お元気ですか?

また台風が沖縄・九州地方を北上し明日には本州を西からなぞるように通過してゆくみたいです。数十年に一度という表現の大規模暴風雨を連れて移動する台風に私たちはどうしたらいいのでしょうか。先日の北陸や北海道に大被害を与えた台風のように、経験の薄い地域では防災として何をしていいかもわからないのではないでしょうか。どうぞ皆様お気を付けください。

いつもお世話になっている「探偵小説三昧」のsugata様、ここしばらくはご推薦の本を見ながらも私の読書モードが低下していたこともあり読むことが出来ないでおりました。しかし、先日アナールデュル・インドリダソンの『声』という作品を紹介しているのを拝見し、これはすぐ図書館に予約。実はタイトルに惹かれたからなのです。
『声』というタイトルでまず私の頭に浮かんだのはプーランクのオペラ『声』でした。フランス語のタイトルではLa Voix Humaine.『人間の声』となるこのオペラはジャンコクトーの原作にプーランクが曲をつけたもので、女性が一人受話器を持ちながら間違い電話や混線にいらいらしていると別れた恋人から電話がかかってきて・・・女性は次第に錯乱してゆきます。ちょっと怖い一人オペラなのですが、それだけに圧倒的な迫力で聞く人をひきつけます。

さて、sugata様の解説を読むとアイスランドのレイキャビックが舞台。最近スウェーデンやフィンランド、ノルウェーといった北欧の作品が紹介されるようになったとはいえ、アイスランドとはまた激しく寒いところです。しかも孤島ですから殺人事件があったとしても犯人は逃亡なんかできません。人間の生活圏も限られていますから尚更のことです。とすると犯人は人に紛れているのでしょうか。

主人公はレイキャビック警察の捜査官エーレンデュル、先に『湿地』『緑衣の女』があり本作がシリーズ三作目なのだそうですが、先の二冊を読んでいなくても全く問題なく『声』を楽しむことが出来るのは作者のうまさでしょう。

事件はレイキャビックのホテルの地下、クリスマスイベントを控えドアマンのグドロイグルがサンタクロースの衣装のまま殺害されています。捜査にあたるエーレンデュルはホテルの従業員に聞き取りを開始しますが、誰もがグドロイグルの事をよく知らないと言い犯人どころか被害者の実像もつかめないでいます。かろうじてイギリスからきたレコードの蒐集家ワプショットからグドロイグルが子供の頃美しい声の歌手であったことを聞き出します。しかしホテルの従業員同様ワプショットも多くを語らないばかりか何かを隠している様子。そんな霧の中の手探りの捜査が少しづつ進んでいきます。

派手なシーンは無く、被害者の周辺の聞き取りが主な柱となって物語は進んでいきます。主人公エーレンデュルの過去の重荷や娘との関係が織り込まれながら重たい空気が物語を覆いますが、だからと言って暗く陰湿なものは感じません。たしかに社会問題を意識させ社会病質的な雰囲気を作品は描いていますが、どこか救いの匂いがします。

久しぶりのsugata様ご推奨の『声』。十分に楽しむことができました。アイスランドも行ってみたいですね。


それにしても小児性愛やLGBTといった事を背景にした犯罪ドラマが多いのが気になる。小説やテレビドラマが作者の創造のものであると同時に少なからず時代の反映であると考えるからだ。


おまけ)

この『声』の体裁について一言言い添えておこう。私が読んだ本は四六判縦組みだった。本文は明朝体で印刷されている。ところが読む進むとところどころ回想の部分がありその部分が斜体文字で組まれている。きっと原書も何か字体を替えているのだろうと推測する。訳本を編集するときにその部分を斜体にしようと決めたのだ。しかし斜体という文字は本来欧文文字の字体であり左から右に読む文字だから使うことが可能になる字体だと思う。ポスターなどならいざしらず、日本語の文章のしかも縦組みの版で斜体を使うのは間違いだ。実際その部分は非常に読みにくい。
今回の『声』に限らず最近の出版物には字体をいじりすぎる傾向があるように思う。ゴシック文字の多用も目に余るがコンピューターで文字が作られ組版が出来るようになったのも一つの原因である。昔なら植字工さんに怒られたものだ。
『声』に関しては次に改版があるとしたら、もしくは文庫本化の時に一考を願いたい。
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