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杣人・somabito

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『海猫』

お元気ですか?

谷村志穂さんの『海猫』を読みました。先日WOWOWで放送した函館を舞台にしたドラマ『尋ね人』を録画してまだ見ていないのですが、これをきっかけにちょっと函館づいています。NHKの“新日本風土記”やBS日テレの“ホテルの窓から”で函館を紹介する放送があっていつもなら放送されたのも知らないまま見過ごしているのですが、録画して見てDVDに焼いて保存したりしています。
そして、ふと以前 Book Off の棚に並んでいた文庫本『海猫』の表紙に元町のハリストス正教会が描かれているのを思い出したので読んでおこうかと Book Off に行きました。『尋ね人』と同じ作者。『海猫』が私を待っていました。

ロシア人の血をひく男と結婚した函館の老舗旅館の娘タミは戦地で夫を亡くし、薫と孝志二人の子供をつれて引き上げてきます。透き通るような白い肌に悲しげな目を持つ娘に育った姉薫は南茅部のこんぶ漁を生業とする漁師邦一のもとに嫁ぎますが、それを心配気に見守る義弟広次。次第に広次に惹かれる薫。邦一との子美輝を授かった薫ですが夫から気持ちは離れ、逆にお互いの思いを抑えることの出来なくなった薫と広次は結ばれ薫は美哉を生みます。

親子三代にわたる女の愛の物語といったストーリーです。作者の谷村志穂さんは私とほぼ同年代。『海猫』に描かれた時代を私はリアルに知っています。北洋漁業で賑わう函館、大門の華やかな様子、湯の川温泉街、教会が立ち並ぶ元町・・・すべてが私の記憶にあります。そうゆう点では『海猫』は私にとって楽しめる作品でした。
ですが、函館に暮らしていた人間からすれば細かなところで違和感を感じる表現、設定が目立ちます。例えば湯の川の温泉に泊まる広次は薫を連れ出してハリストス正教会にいきます。二人にとっては重要なターニングポイントの場面ですが、函館を訪れた方は分かると思いますが湯の川と教会のある元町は函館の両端です。食後の散歩のついでのように行くところではありません。七重浜に海水浴に行った帰りに元町に寄っていこうという場面も家への帰路と方向は全く逆ですし距離も離れています。寄り道で行くようなところではありません。薫の娘美哉は教会を訪ねた折り空いた時間をつかって外人墓地まで散歩します。これもちょっと考えにくいですね。函館山の麓を半分ぐらい歩く距離です。あとがきを読むと谷村さんはお祖母さんが函館に住んでいて何回も訪れた事があると言います。作品を書く取材でももちろん函館を訪れています。ですが、住んでいる人間の感覚としてはちょっと受け入れがたいものが作品の随処に見受けられるのです。作品のあら探しをするつもりはありませんので細かく例を挙げるつもりはありませんがこうゆう小さな違和感が物語をダメにしていきます。
あとがきで谷村さんは「教会の皆さん並びに読者の方々にお断りしなくてはいけないのは、印象的な音を奏でる大小六個の鐘は、実際には、昭和十七年に軍事供出された後、昭和四十三年に大鐘が一つ献納されるまでの間、存在しないということだ。つまり函館の町にはあの鐘の音が響かなかった空白の時間があった。鐘をつく人もなかった」と断りを書いています。私は、この鐘の無かった時代、鐘が一つついた時代を知っています。水色や白のペンキが痛々しく禿げた寂れたハリストス正教会を知っています。好きな遊び場の一つ、通り道の一つでした。だから、谷村さんが作品の中で現実には無かった鐘をあるように書いたことは全く問題にならないと断言出来るのですが、地理的描写の不具合はとても違和感を感じてしまうのです。

もう一つ、この作品はタミ、薫とその子どもである美輝と美哉の女性三代の情念の物語で幾つかの場面で情交のシーンが出て来るのですが、どうもこれが単調で陳腐です。物語の展開はまぁ軽い恋愛小説と思えばいいのですが、心理描写が薄くてそれぞれに苦悩する登場人物をえぐり切れていません。読んでいるうちに私には谷村志穂さんが、自分の頭の中にあるどこか聴き覚えた言葉を文字にしただけであって自分の中にある感情を掴み取れていないのではないかと感じられました。ですからせっかくの親子三代の壮大なドラマという設定が薄っぺらいものになっているのです。残念な作品です。

そうは言っても私がいた函館と同じ時代を書いた本です。大切にしまっておきましょう。
ちなみに、この本に書かれている当時の電車道路(市電が走っていた線路が敷かれた道)は今とは全く違います。その事も知っておかないとちょっと勘違いするかも知れませんね。

海猫〈上〉 (新潮文庫)海猫〈上〉 (新潮文庫)
(2004/08)
谷村 志穂

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テーマ : 読書
ジャンル : 小説・文学

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