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杣人・somabito

Author:杣人・somabito
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ラディゲの思い出

お元気ですか?

人には忘れえぬ思い出や人生の長い時間を付き合うことになる出会いがあります。今日はそんなお話をしましょう。

私がそのラジオドラマに出会ったのは中学か高校1年の春の頃だったと思います。当時NHKのFMで放送するラジオドラマではエレクトーンの女性奏者(名前が思い出せません)が少しおしゃべりをしてドラマが始まっていました。
その女性の声が好きだったので楽しみにしていたのですが、その日、女性は「『肉体の悪魔』そのハッとするタイトルはクロード・オータンララ監督により映画化もされ主人公役のジェラール・フィリップに憧れたものです。」という語りで始まりました。
それが私と『肉体の悪魔』、レイモン・ラディゲとの出会いの始まりです。

ラジオドラマは一人称で語られるラディゲの心理小説を見事に表現していて私はすっかりその作品に心を奪われました。モーパッサンやラシーヌを読み始めていましたし、フランス語もラジオやテレビで勉強し始めていましたからフランスの作家であるラディゲを読むのに躊躇はありません。学校帰りにいつもの本屋さんに立ち寄り新潮文庫になっている『肉体の悪魔』 新庄 嘉章訳を買い求めました。
当時から私は文庫本の後ろに書かれた解説を頼りに本の世界をさまよっていました。ですから解説に書かれていた三島由紀夫の『ラディゲの死』を読むことになりますし、ラディゲのもう一つの小説『ドルジェル伯の舞踏会』も読みます。なんと言ってもラディゲの作品で文庫で読めるのは二冊しかありません。こうして私はレイモン・ラディゲを中心とする世界に踏み込んでゆくことになります。

コクトオは当然です。ラディゲを文壇に推した張本人です。しかしコクトオが評価したラディゲの詩はどうしたら読めるのでしょう。
私は夏休みを利用して一人東京に遊びに出て神田を歩きます。そして見つけたのが江口清氏の『レーモン・ラディゲ全集』東京創元社と『天の手袋―ラディゲの評伝』雪華社でした。書棚に登って嬉々として買い求めたのは言うまでもありません。
田村書店の二階で「ラディゲの本何かありませんか」と尋ね、ラディゲの詩にコクトオのリトグラフが印刷された薄い詩集を見せられるのですが、10000円か15000円ぐらいの値段を言われ諦めたのもこの時の事だと思います。高校生にはちょっと高い本だったのですが、今でも惜しいことをしたと思っています。

さて、高校生2年か3年のある国語の時間。先生が「君たちも是非全集を読むといい」と言います。どうゆう流れでそうゆう話になったのかは憶えていませんが、当時私は新書版の夏目漱石全集を持っていて全集本を読む楽しみを知りはじめていましたので、心の中で“おっ面白いことを言うね”と先生に拍手を送っていたのすが、なんとその先生は続けて「一番短い全集ならレイモン・ラディゲ全集があるよ。なにせ一冊しかない全集だから。」と言うではありませんか。これにはびっくり。その先生がラディゲを好きだったのか『ラディゲ全集』を持っていたのかどうかは知りませんが、突然登場したラディゲに驚いたのを憶えています。

その後、私のフランス語の勉強が少し進むと、出版リストを頼りにフランス語のラディゲ全集を入手したりして自己満足の世界に浸ったりもしたものでした。

そんな学生時代から何年かして、私はパリにいました。といっても美術館を歩く以外には観光らしい観光をするわけでもありません。街をふらついたり庶民的な食堂でご飯を食べたり・・・。そんな時に、私はパリの東、パルク・サン・モールに出かけます。レイモン・ラディゲの家があった郊外の街です。

マルヌ川に浮かぶ木舟を眺めながら、『肉体の悪魔』の場面を思い出したり、宮沢賢治のイギリス海岸を思い出してみたりと爽やかな初夏の空気を楽しんでいました。
パリとは違い高い建物がなく住宅の立ち並ぶ乾いた土の道を歩いてゆくと、ふと鉄のフェンス越しに見慣れた家が私の目に入ってきます。本の扉などで何度となく見てきたラディゲの生家でベージュ色の壁は写真そのものです。“へー今もあるんだ。”と何か懐かしい思いにかられ近づいてみると、フェンスの向こうで庭箒で芝生を掃除している夫人がいます。私は思わず、「マダム、ここはレイモン・ラディゲの家ですよね」と声をかけました。夫人は箒をもったまま此方を向き、「そうですよ」と一言言うと、私の方に近づいてきます。そして、「よかったら中に入りません?」と私に入って来るように言います。私は誘われるままに玄関に周り、夫人の案内で家に入りました。
レイモン・ラディゲが好きで彼の住んでいた街を歩いてみようと思い来たことを告げると夫人は嬉しそうに家の中を案内してくれます。夫人のお父様がイギリスから移住しこの家を買ったこと、バスルームを改造してキッチンにしたことなど話を聞きながら、部屋を見て歩き、居間のソファーに席を移してジュースを頂きながら話が続きます。

暫くすると息子さんが帰ってきました。といっても40代ぐらいの体格の立派な方です。見知らぬ外国人に怪訝んな雰囲気の息子さんに夫人は私の来意を告げ、言外に“大丈夫よ”と伝えています。息子さんは電気技師をされているそうで、日本にも行ったことがあると言います。何かの用事で家に立ち寄ったのでしょうか。直ぐにまた出かけてしまいました。

夫人は「日本人でこの家に訪ねて来たのは貴方が初めて」と言います。私は心中“研究者やラディゲ好きの学生は来たことが無いのかな”と思いましたが、言わずに留めました。ちょっと誇らしい私の思いに自ら水を注すことはありません。
夫人は新聞に載った家の記事を持ってきて私に持ってゆくよう手渡してくれます。お礼を言い、そろそろ辞することとしましょう。

日本に帰って来てからも暫く夫人とは手紙のやり取りをしましたが、今はそれも途絶えています。夫人からいただいた新聞はラディゲ関係の本をまとめた箱に一緒に収められています。そのうちにまた読み返して(眺めてかもしれませんが)みたいものです。


中学か高校生の時に聞いたラジオドラマ。それをきっかけに私はレイモン・ラディゲと時間を重ねて来ました。
国語の先生はあの全集話がなかったら記憶に留まる事はなかったでしょうし、何回も足を運んだ田村書店でも詩集の思い出は忘れられない一コマです。本と出会い、好奇心の導くままに行動し出会いを重ねてゆく。私はそんな自分の過去がとても愛おしく思えます。
冒険に誘う出会いの数々です。

そんなことを考えながらAmazonを覗いていたら、『肉体の悪魔』も新しい訳本が出ているのですね。ちょっと読んで見たくなっています。

皆さんはどんな素敵な記憶をお持ちでしょうか。


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